吉田輝星が「ハンカチ化」する危険は消えたのか


まだ消えてないな。

 18歳右腕がプロデビューでその名の通り、綺羅星のごとく輝いた。北海道日本ハムファイターズドラフト1位ルーキー吉田輝星投手が6月12日、本拠地・札幌ドームで行われたセ・パ交流戦広島東洋カープ戦でプロ初登板初先発を果たし、5回4安打1失点で初白星を挙げた。

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 立ち上がりから新人らしからぬマウンド度胸を見せた。いきなり初回に一死満塁のピンチを招いたものの、5番・西川龍馬内野手140キロの外角直球で空振りを奪って三球三振。続く好調の6番・磯村嘉孝捕手にも2球連続で帽子を投げ飛ばすなど力のこもった投球を見せ、最後は115キロの外角カーブタイミングを外し、三ゴロに打ち取って窮地を脱した。

 その後、2回に失点こそしたとはいえ、二軍時代にも投げたことのなかった5回に突入しても相手打線を三者凡退に封じるなど終始堂々たる投球を披露。試合後はお立ち台にも立って嬉しい勝ち名乗りを受けた。

一軍昇格「最終テスト」の成績は振るわなかったが

「やっと一軍の舞台に立てたので、これからもしっかり、今までいろいろやってきてもらった分を返せるように頑張っていきたいと思います」

 ヒーローインタビューで、謙虚な姿勢ながらも力強い言葉を口にすると、本拠地のスタンドからは万雷の拍手と大歓声が沸き起こった。

 昨年、夏の甲子園では秋田県代表・金足農業高校エースとして力投を続けて準優勝。端正な顔立ちから一躍アイドル的存在となり、昨秋のドラフトで1位指名された日本ハムに入団すると一軍デビュー登板に注目が集まっていた。その大舞台の場で、いきなり結果を残したのだ。試合後は栗山英樹監督からも「新しい風を持ってきてくれた感じがした」と快投を称えられた。否応なしに今後の吉田輝には期待値がグングンと高まる。

 ここまで吉田輝は二軍のイースタン・リーグで9試合に登板して0勝3敗、防御率4・15の成績だった。パッと見れば、お世辞にも素晴らしい結果を出しているとは言い難い。

 ただ勝ち星にこそ結びついてはいないが、好投した試合もあった。前々回の登板となった先月26日のイースタン・リーグ、西武戦(西武第2)では2回を1安打無失点。この試合はウイルス性胃腸炎を患って登板回避に追い込まれてからの復帰戦でプレッシャーもあったはずだが、それを感じさせない冷静沈着な投球術が光った。

 しかしながら大事な一軍昇格の〝最終テスト〟で暗転してしまう。今月4日のイースタン・リーグ巨人戦(ジャイアンツ)で先発マウンドに立ったものの3回6失点KO。不安を露呈してしまったことで一軍昇格も見送られるかと思いきや、意外にも栗山監督の下した決断は「ゴーサイン」だった。

大方の予想を覆しての「快投」

 チーム関係者の話を総合すれば、指揮官の胸のうちには「早いうちに一軍のマウンドを経験させ、雰囲気をつかむと同時に一流の打者を相手にして自分に足りない〝何か〟もつかんで欲しい」という意向もあったようだ。

 先月8日のイースタン・リーグロッテ戦(ロッテ浦和)で4回0/3を77球、無失点としたのが、それまでの最長イニング登板数。その点を踏まえても今回の一軍昇格を「時期尚早」と指摘する声は少なくなかった。

 しかも11日時点でチームリーグ2位。首位・東北楽天ゴールデンイーグルスとはわずか0.5ゲーム差だ。緊迫した状況下での本拠地登板で相手はセ・リーグ3連覇中の強力カープ打線とくれば、たとえベテラン投手であったとしても先発マウンドには普通に重圧がのしかかる。それでも栗山監督はあえて断を下し、大舞台のマウンドへ18歳ルーキーの背中を押した。

 その結果は大方の予想を覆しての快投。そしてプロ初勝利もつかみ取ったのだから、チーム内外から大物ルーキーに絶賛の声が飛び交うのも当然のことであろう。

「デビュー戦ではメッタ打ちにされたほうがいい」

 だが日本ハムOBの1人は今後の吉田輝に対して「この初登板を彼自身がどのように生かすかが、分かれ道になる」と言い、指揮官の抱く18歳右腕への思惑についても次のように続けた。

「今のままでは課題がまだまだ山積み。それは栗山監督も十分に分かっている。だから本音で言えば今回、いきなり一軍のプロ初登板でカープ打線を相手に好投して初勝利を奪ったのは〝嬉しい誤算〟だったはずだ。

 そもそもチーム内には『輝星はデビュー戦で逆にメッタ打ちにされ、苦境を味わったほうがいい』という声があったのも事実。KOされて自分の課題を知り、しっかりと向き合いながら克服していくことも1つの成長過程につながる。それを分かっていたからこそ、栗山監督の頭の中には〝ダメ元〟で吉田を一軍マウンドへ送り出したところもあっただろう。

 もちろん、この日の試合を〝捨て試合〟にしようとしていたわけではない。だが栗山監督は12日の広島戦を単に2019年シーズンの中の交流戦1試合と見ていたのではなく、もっと長いスパンでとらえていた。次代を担うべき実力派スターを育成していく上で〝獅子の子落とし〟の姿勢を貫く決断と勇気も時に必要だが、それをこういう大舞台で実行して結果を出させた栗山采配はやはり『さすが』と言える」

 かつて日本ハム在籍時代の大谷翔平アナハイム・エンゼルス)に〝二刀流〟の育成プランを球団のフロント幹部とともに練り上げて実践。当初は嘲笑されながらも、メジャーリーグをも席巻する二刀流プレーヤーへと成長させた。そんな栗山監督の育成手腕は間違いなく見事なものだ。

 とはいえ、その〝栗山マジック〟によって吉田輝は今回のプロ初登板初勝利の衝撃デビューをきっかけに今後も大谷のようなブレイクロードを歩んでいけるのか。あるいはどこかでプロの壁にぶち当たって低空飛行を続けるハメになってしまうのかは、やはり前出のOBの言葉通りに本人次第ということになる。

桑田のような頭脳的ピッチングも身につけられる逸材

 ヘタをすれば、同じ日本ハムの先輩・斎藤佑樹投手のように結局は人気先行で期待を裏切る危険性もまだ漂っている――。実際にそう懸念する球団関係者も少なくない。これまで幾度となく大物ルーキーと呼ばれた選手たちの育成過程を見てきた古参の日本ハム球団関係者は次のように力説する。

「あの広島を相手に初回に訪れた大量失点のピンチをしのぎ、その後は立ち直って快投し、初勝利をつかんだ。これをいい形で自信につなげていけば、吉田は田中将大(投手=現ニューヨーク・ヤンキース)のようになれる可能性を秘めている逸材だと思います。

 元々、金足農業高校時代から彼は長いイニングを投げるため、要所以外では適度に手を抜きながら『安打でも構わない』という割り切った投球が出来るタイプのクレバーな選手。かつての桑田真澄(元巨人、ピッツバーグ・パイレーツ)のような頭脳的なピッチングも身につけられると思います。かなり頭のいい投手なので、今回の初勝利にも浮かれるようなことはなく冷静に自分の成長過程の材料にすることが出来ると信じたいところです。

 ただ問題なのは大方の予想を覆し、いきなり勝ってしまったことで世間から必要以上のフィーバーにさらされること。これに吉田が強い気持ちを持って動じずにいられるかどうか。

 周囲の大絶賛に加え、さまざまな形で甘い誘惑も舞い込んでくるはずです。『デビュー戦はメッタ打ちにされたほうがいい』と指摘する関係者が少なくなかったのは、最高のスタートを切ることでもしかすると彼が浮き足だってしまうかもしれないと心配していたからです。もっとも、そんな不安が杞憂に終わるぐらいの強い精神力と信念を吉田が持っていると我々は願っていますが・・・」

 かつて夏の甲子園・決勝戦で戦い、ともにプロ入りした「マー君」と「ハンカチ王子」は今や大きく明暗を分けた。まずはデビュー戦で想像以上のインパクトを残した吉田輝が今後、どちらの先輩に近づくことになるのか。周囲は固唾を呑みながら大物ルーキーの次回登板と成長過程を見守っている。

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(出典 news.nicovideo.jp)